”普通”とは正常か異常か、改めて考えさせてくれる小説『コンビニ人間』。
主人公は、コンビニで18年間アルバイトを続けている30代の女性です。
結婚もキャリアアップも望まない主人公を、あなたは異常だと感じますか?
この記事では、『コンビニ人間』の書評と見どころを解説します。
”普通”に疑問を感じている人や、その概念に縛られて苦しんでいる人は、ぜひ読んでみてください。
『コンビニ人間』の基本情報

まずはこの作品のあらすじや特徴を簡単に紹介します。
あらすじ
主人公・古倉恵子(ふるくら けいこ)は、学生時代から続けているコンビニアルバイトを18年間続けています。
理由は「世間の歯車として正常に働けている」と実感できるから。
しかし結婚や出産、就職といった一般的なライフステージには関心がなく「自分には必要ない」と感じています。
そんな主人公を周囲は”普通ではない”と見なします。
しかし、本当に彼女は”普通ではない”のでしょうか。
そもそも”普通”とは何なのか、本当にそこまで大切なものなのか。
多くの人が当たり前だと思っている価値観が、この一冊で覆されます。
出版時期・累計部数
本作は2016年に第155回芥川賞を受賞し、2018年9月20日に出版されました。
「コンビニで18年間働き続ける主人公」が話題になり、累計160万部を超える大ヒット作品に。
世界的にも注目されていて、39カ国語に翻訳されています。(2023年7月現在)
著者について
『コンビニ人間』の著者は村田沙耶香(むらたさやか)氏。
人間の奥底にある欲の表現、社会の固定観念を鋭く描く作風が特徴で、数々の賞を受賞しています。
<主な受賞歴>
年 | 作品 | 賞 |
2003 | 『授乳』 | 第46回群像新人文学賞 優秀作受賞 |
2009 | 『ギンイロノウタ』 | 第31回野間文芸新人賞 受賞 |
2013 | 『しろいろの街の、その骨の体温の』 | 第26回三島由紀夫賞 受賞 |
2016 | 『コンビニ人間』 | 第155回芥川賞 受賞 |
『コンビニ人間』の感想・レビュー

『コンビニ人間』を読み終えたとき、私は”普通”という言葉に恐怖を感じました。
私自身、就職や結婚、出産、キャリアアップなどを「当たり前の道」とは思っていないつもりでした。
しかし、いざ自分が進もうとしている道を考えると、やはり”普通”に沿ったものだったのです。
「どうして?」と聞かれても、「とりあえず」「大人として」と曖昧な理由しか答えられそうもありません。
物語は終始、奇妙な空気を放っていました。
しかし、それは”普通ではない”とされている主人公のせいではありません。
無理をして周囲に合わせようとする主人公と、誰が決めたかもわからない”普通”に縛られている人々の姿こそが、異常な空気を生み出していたのです。
アルバイトだから、結婚していないから、交際したことがないから、だから何なのだろう。
その人自身が幸せになる選択ができたなら、何も問題ないのではないのだろうか。
もしかすると、”普通”を目指すあまり自分らしさがなくなるのは怖いことなのかもしれませんね。
『コンビニ人間』の見どころ!印象的な部分3つ
『コンビニ人間』の見どころは、やはり著者である村田氏の独特な表現力です。
今回は私が特に引き込まれた一部分を紹介します。
1. 主人公の鋭い分析力

主人公は常に”普通”の人とは何かを観察し、その分析は驚くほど的確です。
例えば主人公は”普通ではない人”を「異物」と言い、彼らが社会から弾かれることを「排除される」と表現します。
とても残酷ですが、核心を突いているように感じました。
自分が”普通ではない”と認識し、「治らなければならない」と考えている点も衝撃的でした。
そもそも、一般的な考え方を持っていないだけでは病気とは言えないはず。
それでも主人公がそう思ってしまうのは、周囲から病人のような扱いを受けていると感じたからでしょう。
悲観的にならず、残酷な言葉を自分にあびせながら分析する主人公がとても印象的でした。
2.”普通”であろうとする周囲の異常

作中に登場する”普通”の人々は、全員異常な面を見せていました。
主人公の同級生は、主人公に「結婚した方が良いよ」「結婚しないなら就職しないと」と助言します。
妹は、主人公の言動に「もう限界だ!」と言います。
しかし主人公が「なぜだ」と聞いても、誰ひとり論理的な説明はできません。
まるで、ただただ異物を排除したいかのようです。
決して主人公の周囲にいる人物の気持ちがわからないわけではありません。
それでもこの小説を読むと、周囲の”普通”に対する執着に異常性を感じます。
3.見落とされがちな主人公の”普通”

主人公は”普通ではない”とされつつも、実は多くの人と共通する感情を持っています。
それは、家族に喜んでほしいという思いです。
家族は主人公が”普通”になるよう願っていました。
そんな家族の気持ちをくんで、主人公は”普通”になろうとしていたのです。
大切な人の期待に応えようとする主人公の姿を見ていると、本当に彼女は”普通ではない”と言えるのか、考えさせられます。
『コンビニ人間』はどんな人におすすめ?

『コンビニ人間』は、「普通」であることに疑問を感じている人や、常識に縛られて苦しんでいる人におすすめです。
例えば「就職しなければ」「出世しなければ」「結婚しなければ」「恋愛しなければ」と、自分の希望とは関係なく考えてしまう人。
もちろん、この価値観によって得られる成果はたくさんあるでしょう。
しかし目指した先に自分の本当の幸せがあるかは別の話です。
この本を通して、「普通」の意味を改めて見つめ直し、自分にとっての幸せとは何かを考えてみてはいかがでしょうか。
まとめ
「普通」「正常」「異常」という言葉がありますが、どれも正確な具体例はありません。
私たちは、一体何を基準にそれらを判断しているのでしょうか。
もしかすると、私たちは存在しない”普通”に脅かされているのではないでしょうか。
『コンビニ人間』は、そんな人間が持つ固定観念の怖さに気づかせてくれる貴重な一冊だと思います。
最後まで読んでくださりありがとうございました。